雨の降る世界で私が愛したのは


 そのせいかその男と付き合っていた時のほのかとの食事はいつも肉料理ばかりだった。

 今日もほのかがしゃぶしゃぶが食べたいと言ってきたのだ。

 まだ肉への強い欲求が残っているらしい。

「最近なんにもない」

 ほのかは肉を数枚まとめて箸ですくい、湯の中で揺らす。

 まだうっすらピンク色が残っているかいないかぐらいで引き上げ、ポン酢に浸すと口の中に押し込む。

 その作業を数回立て続けに行う。

 ほのかの食べっぷりの良さに見惚れた一凛は自分も同じようにして肉を食べた。

「なんかさ、こういうところに二人で来たいなって思える男がいないんだよね最近。もっと若い時はこういうところに恋人同士で来ることに憧れてそれに意味があったんだけど、一通りそういうのをやるとさ、よっぽど好きになった男じゃないと出てくる旅館料理と同じっていうか、なんかそういうの飽きたっていうか。だったらこうやって女友だちとの方が楽しいんだよね」

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