雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛は苛立っている自分に苛立った。

 まるで自分のおもちゃを取られていじけている子どもと同じゃないか。

 動物たちに自分を捧げる仕事をしているのに、自分のエゴでハルが幸せになることを素直に喜べない。

 自分が言ってきたこと書いてきたことが、上っ面だけの綺麗ごとに思えてくる。

 ハルの檻に行く途中で他のゴリラたちがいる生態系展示型の檻に寄ってみる。

 それはもはや檻というより隔離された小さなジャングルだった。

 従来の鉄柵ではなくところどころ二重でできた強固なガラスがはめ込まれている。

 訪れた客は見下ろすようにして360度どこの角度からも中をのぞくことができる。

 二匹のメスと一匹の子どもがそれぞれ寝転がっているのが見えた。

 残りは一凛のいる角度からはどこにいるのか見えない。

 大きな岩や生い茂る木の影になっているのだろう。

 トンゴは今日も外に出て来ていないのかも知れない。


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