雨の降る世界で私が愛したのは


 子どものゴリラが一匹のメスに駆け寄る。

 母親なのだろう子どものゴリラを抱くように自分の体に寄せる。

 その横にハルの姿を想像した。

 オスのゴリラは優しく、中には子育てを手伝うものもいる。

 トンゴもそうだった。

 ハルの新しい檻も悪くはないが、こちらの方が何倍も広い。

 母ゴリラが大きな口を開け何か叫んでいるように見えた。

 でも声は聞こえない。
 
 はめ込まれた強固なガラスは中とこちら側の音を遮断した。

 ハルがここに移ると今のように会話ができなくなってしまう。

 ハルはすぐに他のゴリラたちに快く迎え入れられるだろう。

 そしてハルは気に入ったメスのゴリラと子どもを作り、ここはもっと賑やかになる。

 ハルは自分のことなど思い出すこともなくなるだろう。

 でも、と往生際の悪い考えも芽生える。



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