雨の降る世界で私が愛したのは


 どこかの店で傘を置き忘れてしまった一凛は依吹がかざす黒い傘の下に入ると、依吹は雨に濡れないよう一凛の体を自分の方に引き寄せた。

 他人から見たら誰もが二人は恋人同士だと思うだろう。

 颯太はいつも直球を一凛に投げてくる。

 良くも悪くも颯太は分かりやすい。

 それに比べ隣にいる依吹はその薄い瞳と同じように、肝心の部分が淡い色でごまかされるように掴めない。

 でももっと掴めないのは自分の気持ちだ。

 そう言えば昔アレックに一度だけ言われたことがあった。

「誰か日本に忘れられない人でもいる?」

 なぜそんなことを問うのかと訊ねると、僕と一緒にいるときに僕以外の人のことを考えているような顔をするとアレックは答えた。

 そう言われてもその時の一凛には思い当たるふしはなかった。

 両親のことはよく考えていたが、アレックの言うのはそんな意味じゃないと分かっている。



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