雨の降る世界で私が愛したのは


 「酔ってないの?」と一凛が訊ねると「酔ってるよ」と依吹は言ったが全然酔ってなさそうに見えた。

 一凛は灰色の海に降る雨の映像をぼんやりと見つめる。

 目を閉じると岩の上で雨空を見上げるハルの姿が瞼に浮かんだ。

 ハルは雨を見つめながら何を思っているのだろう。

 ハルの心の中をのぞいて見たい。

 自分はどれくらいの大きさでそこにいるのだろう。  

 小指の先ぐらいだったら寂しい。

「ハルは他のゴリラと一緒の方が幸せだよね」

 一凛は目を閉じたまま呟いた。

 カランと氷がグラスにぶつかる音がすぐ横でした。

「さぁな」依吹の低い声で一凛は目を開ける。

「なんでここで、そうだなって言ってくれないのよ」

「我が儘な奴だな。人の発言まで指示すんな」

 だいたい依吹は昔からねえ、と一凛は反論する。

 ふざけるように依吹と言い合いをすると気持ちが少し軽くなった。



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