雨の降る世界で私が愛したのは
依吹のことは時々考えていた。
依吹から何も連絡がないということはハルは元気でやっているんだと。
一凛は自分の腕を依吹の腕に絡ませた。
「依吹」
反対側の依吹の肩が雨で濡れている。
「わたし達カップルに見えるかな」
依吹は前を向いたまま言った。
「酔っぱらいに見えるのは確実だな」
一凛は少し笑って、短いため息を肩でついた。
「いつもありがとうね、依吹」
依吹は何も言わなかった。
走って来たタクシーがライトで雨を照らす。
一凛は手をあげると自分は歩くという依吹を残し車に乗り込む。
フロントミラーに映る依吹は小さく見えなくなるまでずっと車の方を見ていた。