雨の降る世界で私が愛したのは


 ハルが理由もなく人を襲うはずがないのは誰よりも一凛が知っている。

 あの聡明なハルが重症を負わせるほどの怪我を人にさせるとは、よほどの理由があるからに違いない。

 今すぐにでもハルのところに駆けつけたかった。

 ハルは今どうしているのだろう。

 別の檻に隔離されているに違いない。

 ひどい待遇を受けていないだろうか。

 どんな気持ちでいるのだろうか。

 不安で怖くはないだろうか。

 一凛はベッドに腰掛けたまま朝を迎えた。

 いつの間にかテレビ画面は朝の番組に切り替わっていて、爽やかな笑顔のアナウンサーがはつらつとした声で朝の挨拶をしている。

 一凛は立ち上がると浴室へと向かった。

 熱いシャワーで冷えきった体を温める。

 しっかりしろ一凛。

 目を閉じ顔面に熱い飛沫を受けながら、自分に暗示をかける。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫。

 シャワーを浴び終わると一凛は出かける準備を始めた。



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