雨の降る世界で私が愛したのは


 ハルの移動計画のために出した自分の指示にちゃんと従わなかったのだろうか?

 でもそれだけで深刻な事態が起きているのに自分になんの連絡も来ないのはおかしい。

 一凛を包む闇は体の中に入り込みじわじわと広がる。 

 とにかく明日また何か分かったらすぐに連絡すると約束して依吹は電話を切った。

 部屋の灯りをつけテレビをつけた。

 放映終了の画面をまわして深夜番組をやっている局にチャンネルを合わせる。

 人の気配がない部屋に一人でいるのが怖かった。

 画面では青い目をした男女が見つめ合っている。

 映像の感じから古いハリウッド映画に見えた。

『何かあったら必ず知らせをよこすから』

 画面の中で男が女に言った。

 十年前依吹が言った言葉を思い出す。

『ハルに何かあったらすぐ連絡するから』

 依吹はその約束を今でも守ってくれていた。

 でもまさか自分が日本に帰国し、それもこんなハルの近くにいる状況で知らされるとは。

 ハル、いったい何があったの?


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