雨の降る世界で私が愛したのは
鳥類エリアを抜けるとライオンやチーターなど哺乳類の檻が並ぶ。
殆どの動物が雨の当たらない場所で寝そべり、半分目を開け通り過ぎる一凛と依吹を見た。
「依吹か」何匹かがそう呟いた。
ベンガルトラの檻の前を通り過ぎる依吹の背中が一凛には少し寂しそうに見えた。
は虫類エリアにさしかかり、両手で自分の耳をふさぐ一凛を見て依吹は笑う。
「だって、にくぅとか叫ぶから怖いんだもん」
「亀はそんなことないぜ、種類にもよるけど。ゾウガメなんかは大人しいし長生きするからさ、ほら」
依吹は巨大と言ってもいい大きさのカメの檻の前で立ち止まる。
檻といっても低い木の柵でできた簡単に飛び越えられそうなものだ。
『リンダ メス 百十一歳』
そう書かれたプレートが柵に括り付けられている。
雨に濡れたゾウガメの甲羅は黒く光っていた。