雨の降る世界で私が愛したのは


 世間は完全にハルを殺処分するのが当然だという空気になっていた。

 玄関先で園長は一凛に土下座をした。

「申し訳ない、本当に申し訳ない。せっかく一凛先生が手伝って下さったのにこんな結果になってしまって」

 一凛が何度理由を訊いても園長は頭を床にこすりつけるだけだった。

「園長、本当のことを教えてください。何があったんですか?それが分かればハルは」

 殺処分という言葉を一凛は口にすることができなかった。

「一凛」

 駆けつけてきた伊吹だった。

「分かってるだろう。理由が分かっても同じだ」

 どんな理由であれ人が一人死んだのだ。

「でもハルは」

 依吹は何日も寝ていないような憔悴しきった顔をしていた。

 振り返って園長を見るとまだ頭を床につけたまま体を小刻みに震わせている。

 ここにいる誰のせいでもないのだ。

 責任を負うべき人物は計らずとも死というかたちで充分な責任をすでに取っている。


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