雨の降る世界で私が愛したのは


 もし関係者だけであったら、真実は知っている者だけの心の奥底にしまい込み元の生活に戻ることができるだろう。

 ハルはまた新しいゴリラたちの群れの檻に移るか一人の檻に戻るかするだろう。

 でも現実は世間がそうはさせない。 

 一凛は依吹を押しのけ外へ走り出た。

 依吹が一凛の名前を呼んだが一凛は振り返らず傘もささずに夜の雨を駆けぬけた。

 こういう時、無条件に動物たちが責任を取らされるのだ。

 まったく動物側に非がなくても、人間という神を傷つけた動物は死をもって償わないといけないのだ。

 そういった例を今まで一凛は嫌というほど見てきた。

 その度に一凛は心が引きちぎられるような思いだった。

 いつかそんな世界を変えたい。

 一凛の願いでもあった。

 だが今、一番守りたい存在に死が迫っているというのに、自分はなんと無力なことか。

 今まで自分が築いてきたことはなんだったのだ。

 大粒の雨が一凛の躯を打った。

 もっともっと強く降って。

 わたしの躯を粉々にするくらい激しく降って。

 ハルがいなくなるくらいだったら、一凛は自分も一緒に消えてしまいたかった。



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