雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛は頭の上の自分の傘を見上げる。

 ピンクの水玉模様の子どもっぽい傘。

 歳の離れた依吹のお姉さんはとても美しい人でいつも長い髪を綺麗に結っていた。

 それに比べると一凛は水溜りに映るおかっぱ頭の自分を見つめる。

 自分も早くあんな傘が持てる大人の女性になりたいと思った。

 交差点の一角でスクールバスがやってくるのを待つ。

 普通のバス停のように目印も時刻表もないけど、バスは学校がある日は必ず見えない時刻表に従ってやってくる。

 今朝もいつも通り雨の中バスがやってきた。

 バスに乗り込むと乾いた温風にぶわっと煽られる。

 いつもの運転手のおじさんに挨拶をし奥へと進む。

「おはよ一凛」

「おはよ依吹」

 声をかけられ二人はそれぞれの友人の隣に座る。

 二人が並んで座らなくなったのはいつ頃からだろうか?

 先に行動を起こしたのは依吹の方だった。

 裏切られたような複雑な気持ちだったことを一凛は覚えている。




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