雨の降る世界で私が愛したのは


 ハルはすぐに舎監に移された。

 スタッフたちはハルが伝えたように男の荷物を調べたようだったが、ハルが元の檻に戻されることはなかった。

 舎監に食事を運んでくるスタッフ達はみな哀れんだ目をしてハルを見た。 

 ハルは自分の置かれた状況を理解した。

 もしかしたらあの男は死んでしまったのかも知れない。

 そうなると自分は処分されることになるかも知れないと冷静に思った。

 そう思っても不思議と動揺はしなかった。

 死を怖いとも感じなかった。

 ああ、終わるのか、そう思っただけだった。

 昔自分が死を望んでいたことを思い出す。

 ジャングルで一度失いかけた命、あのときはそのまま手放したいと思った。

 それからこの動物園に移されしばらくは同じ気持ちだった。

 あの時から今まで生にしがみついたことは一度もない。

 いつでも死は受け入れられた。

 それでも昔のように自ら死を望まなくなったのは一凛と出会ったからだった。

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