雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛の顔がもう見られなくなる。

 自分の死を意識したときハルの脳裏をよぎったのは、それだけだった。

 自分が殺されたらさぞかし一凛は哀しむだろう。

 それを思うと心が痛んだ。

 自分の死よりも一凛の哀しみの方がハルにとっては避けたいことだった。

 一凛は一度も新しい檻を訪れることはなかった。

 最後に一凛と会った時、一凛はもう自分たちは会話をすることができなくなってしまうと寂しそうだった。

 あの時が最後の会話どころか一凛の顔を見る最後になろうとはまさかハルも思っていなかった。

 こんなことになるならあの時。

 ハルは一凛を思い浮かべる。

 白い肌に黒目がちな大きな瞳。

 雨を含んだ風にときどき長い髪が揺れる。

 猫の毛のように柔らかそうな髪だとハルはいつも思っていた。

 自分の固い黒い毛とは違う。

 あの髪に一度触れてみたいと思っていた。

 髪だけではない一凛の白い柔らかそうな頬にも、同じように細くて白い指にも、触れてみたい。




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