雨の降る世界で私が愛したのは
 

 それだけがハルが後悔することだった。

 低い金属音がした。

 錆びた扉が開く音がし足音が聞こえる。

 ハルの世話をやいているスタッフのものだった。

 二人のスタッフが交代でハルの面倒をみているがこれは童顔の小柄な女性スタッフだ。

 時間からして一日の最後の見回りだろう。

 彼女はとくに哀れんだ目をしていつもハルを見つめた。

 時には「あなたはなにも悪くないのに」とハルの前で泣いた。

 ハルが「そんなに泣くことじゃない」と慰めるともっと激しく泣いた。

 それを見ながら一凛もこんなふうに自分のことで泣くのだろうかと思い、また胸が痛んだ。

 近づいてくる足音が二人であることに気づいたハルはもしかしたら今晩が自分の最後の夜になるのかも知れないと思った。

 ハルは静かに目を閉じた。

 舎監には窓がなく雨の音もここまでは届かなかった。

 外の空気が吸いたい。



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