雨の降る世界で私が愛したのは
 

 今度は素直に自分の気持ちを口にできた。

 一凛に伝えられなかったことはたくさんある。

 いやほとんどを伝えていないと言ったほうがいい。

 自分のことを伝えるよりも一凛の話を聞く方が好きだった。
 
 それでも今、最後に後悔はしたくない。

 長くは語らなくていい。

 自分の中にある一筋の強い想いだけは一凛に伝えたい。

「もっと近くに来てもらってもいいか?」

 ハルは寄りかかるように檻に体を押しつけた。

 一凛がハルの目の前に立つ。

 一凛の顔がすぐそこにあった。

「触れてもいいか?」

 ハルはうなずく一凛の柔らかそうな髪に手を伸ばした。



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