雨の降る世界で私が愛したのは

檻を超えて

 

 伸びてくるハルの手を一凛は見つめた。

 大きな大きな手だった。

 少しも怖いと思わなかった。

「一凛先生」

 ハルの動きが止まる。

 一凛は振り返った。

「わたしは行きますから」

 彼女は一凛に歩み寄るとそっと一凛の手に鍵の束を握らせた。

「こんなことをしてあなたは」

 彼女は首を横に振った。

「こうした方が楽なんです」

 あの時血を擦りながら一凛に背を向けなくてはならなかった彼女が今さらのように痛々しく思えた。

 押しつぶされそうになっているのは自分だけではないのだ。

 扉の向こうに消える彼女の後ろ姿を見送った一凛は再びハルの方を振り返った。

 さっき自分に伸ばしかけたハルの腕は檻の向こう側に戻されていた。

 一凛は大きな鍵を握りしめる。

 檻の中のハルは静かに一凛を見守っていた。

 錆びた音を立ててゆっくりと入り口は開く。

 一凛は檻の中に足を踏み入れた。



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