雨の降る世界で私が愛したのは
一凛を驚かせた雷が遠くで控えめに轟く。
柵の中は静まり返っていた。
雨の降る音が聞こえてくるだけで、さっき聞こえた声は闇のどこを探しても見つからなかった。
「あなたは誰?」
気づくと頬が濡れていた。
温かい雫が目から溢れる。
一凛は自分の胸を押さえた。
これは何?
この喉が渇くような、息苦しいような胸の痛みは何?
一凛は駆け出した。
そうせずにはいられなかった。
得体の知れない何かが自分を焼き尽くそうとしているようで怖かった。