雨の降る世界で私が愛したのは
伊吹は長い間黙っていたがやがて言った。
「分かった。好きにすればいい」
「ほんとに?」
依吹は一凛の横に腰をおろした。
「俺、子どもの頃からずっと思ってたし、一凛の本を読んでからもっとその思いは強くなってた。
ほんとうは動物園なんかない方がいいんだ。
親父が死んじまって俺が跡を継がなかった時にすべての権利を売ってしまえばよかったんだけどさ、姉貴がどうしてもって言うから。
今回は売らずにそのまま閉園してもいいかと思う」
そこまでしなくても、と焦る一凛を細めた目で依吹は見る。
「俺にはこの仕事もあるし」
依吹は両手を広げて研究室を見回した。
一凛がイギリスにいる間ハルはどうするのかと訊ねる。
一凛がまた申し訳なさそうに応えると依吹は笑い出した。
「他に頼れる人がいないの」
一凛は必死だった。
髪を短くした一凛は子どものように幼く見えた。