雨の降る世界で私が愛したのは
望まない結末
その日はどういった訳か珍しく客の多い日だった。
一凛一人では回らずてんてこ舞いしていると店の主人が二階から降りて来た。
中華鍋を片手にてきぱきと一凛に指示をとばす様子はいつも新聞の上で寝落ちしている主人とは別人だった。
この店も昔は結構繁盛していたのかも知れない。
いつもより一時間も遅く店の看板を片付けた。
袋いっぱいに野菜の切れ端を詰める一凛を主人は厨房の隅で一服しながら眺める。
「どんな訳ありかしらんが」
煙を吐きながらしゃべるのでほとんどの煙は鼻から漏れる。
「人生山あり谷ありやから、心配せんでもまた人生の表舞台に立てるさ。今はその準備をコツコツしてると思えばいい」
一凛が振り返ると主人は腰を曲げながら二階に上がっていくところだった。
いつ作ったのかテーブルの上に大きなおにぎりが二つ置いてある。
「台の上の持っていき」
階段の上から声がした。
胸に抱くとまだほんのり温かい。