雨の降る世界で私が愛したのは
ああ。
一凛は気づく。
ずっと存在するものだと思っていた雨は実は存在しないもの、いや、雨だけがあることが無の状態なのだ。
意味もなく笑いが漏れた。
その時、
「一凛」
光が差し込むようだった。
「一凛」
光の方向に顔をあげる。
光は寄って来ると一凛を抱きしめた。
濡れそぼった一凛の水分が乾いた光に吸い込まれていく。
「依吹、濡れるよ」
一凛が体を離そうとすると強い力で引き戻される。
「見つけられてよかった」
一凛の耳元に依吹の温かい息がかかる。
よかった、よかったと依吹は何度も繰り返す。
「依吹、よくないのよ。全然よくないの。だってハルが、ハルが捕まってしまったのよ。全然よくないのよ」
胸の内側から聞こえてくるくぐもった声ごと依吹は一凛を強く抱きしめた。