雨の降る世界で私が愛したのは
雨の音だけが聞こえるいつもの夜に自分がいることに気づくと一凛はようやく足をゆるめた。
それでも歩き続けた。
ずいぶんと長い間歩いた。
頭の中は空っぽだった。
心を置いてきてしまったら何も考えられなかった。
膝ががくりと折れた。
これ以上歩けない。
ビルの隙間に濡れた体を滑り込ませる。
雨が避けれる小さな空間にうずくまり抱えた膝に頭を埋める。
体は鉛のように重く動かなかった。
ずっとここにこうしていたい。
このまま死んでしまってもいい。
いやそうなってしまえたら。
考えること感じることをやめてしまえたら。
一凛は一つずつ捨ててみる。
最初に体の感覚を手放し次に思考を止める。
そして重い心を胸から外した。
最後に残ったのは雨音だった。
子どもの頃からずっと聞いてきた雨音だった。
何もなくなったのに雨だけはある。