雨の降る世界で私が愛したのは
雨で霞む道の向こうから自転車が一台走ってくるのが見えた。
銀色の自転車はあっという間にバス停に近づきそして通り過ぎて行った。
通り過ぎる瞬間、青いレインポンチョの影から見えた切れ長の目が一凛とその隣の颯太を捕らえた。
依吹だった。
一凛がそれに気づいた時には依吹の姿は声の届かない遠い雨の中に消えてしまっていた。
「今のって依吹?」
「うん、そうみたい」
「依吹ってあいつ男子校に行ったんだっけ?」
中学に入ってから一凛と依吹の距離はどんどん離れていった。
顔を合わせると「よぉ」とか言うぐらいで、最近ではああやって一凛が誰かと一緒にいると無視して行ってしまう。
でも異性の幼馴染みなんてこんなものだろう。
バスがやって来た。乗り込むと温風が吹きつけ雨で湿った体を乾かしてくれる。