雨の降る世界で私が愛したのは
それが発表されたのは、荒れ狂う龍が人々に牙をむくのではと皆が不安を抱き始めた頃だった。
時代錯誤だと反対する者もいたがそれは少数派で、多くの人々は久しぶりの祭典を祝うかのように興奮した。
雨を鎮めるために差し出される生け贄が選ばれたのだ。
ハルだった。
ほのかが心配したとおり、一凛は塞ぎ込み家から出ないような状態になった。
体調もあまりよくないと言う。
依吹が毎日のように一凛のところに行っているようだったがそれでも男の依吹には頼みにくいこともあるだろうと、ほのかも時間を見つけては一凛のマンションに足を運んだ。
玄関を入るといつもと違う香りがした。
さっきまで依吹が来ていたのかも知れない。
案の定、リビングのソファーに座る一凛の髪は乱れ、どことなく艶かしい。
「これじゃ依吹は何しに来てるんだか分かんないわよね」
ほのかは呆れる。
「だからわたしは病気なんかじゃないから心配しなくてもいいのに」
髪を耳にかける一凛の手首は折れそうに細い。