雨の降る世界で私が愛したのは


「ええ、うん。そうなの。今ほのかが来てて。ええ」

 ほのかはそれでも一凛がハルへの気持ちを貫き通すというのなら、自分は応援しようと思っていた。

 でも今一凛の声を聞きながら、これでいいのかも知れないと思った。

 依吹なら今の一凛を支えることができるだろう。

 ふと、ほのかは自分が重大なことを忘れていたことに気づきおかしくなる。

 一凛と依吹。

 本来は喜ばしいことではないか。

 以前の自分だったら両手を上げて喜んだだろうに。

 でも今は。

 一凛の横顔は一見穏やかに見えたが、その下に大きな哀しみが満ちているのがほのかには分かった。

 運命の相手と必ずしも幸せになれるわけじゃないんだね。

 その横顔にほのかは心の中で語りかけた。





 決して止むことのない雨は、世界を沈めてしまうかのように激しく降り続いていた。

 町の川はまるで生き物のようにうねり、十数年ぶりに眠りから覚めた龍のようだと誰かが言った。



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