雨の降る世界で私が愛したのは
「よかったね、一凛。よかったよ、これで」
一凛はこのままハルのことは忘れてしまった方がいいのだとほのかは思った。
依吹との結婚と妊娠。
すべてを今までとは違う新しい環境にするのが今の一凛にとっては一番いい。
ひたりと黒い影がほのかの胸をかすめた。
「依吹の子だよね」
影を口から吐き出すようにほのかは訊いた。
「そうだとしたらね」
ふふっと一凛はグレープフルーツを頬張りながら含み笑いをする。
「そ、そうだよね」
ほのかもグレープフツーツを掴むと一凛と同じように皮を剥き始める。
しばらく二人は黙々とグレープフルーツを食べた。部屋に甘酸っぱい匂いが漂う。
「ハルにはあれから会ったの?」
ほのかは気になっていたことを訊ねた。
一凛はううん、と首を振る。
まだ生け贄の儀式がいつ行われるのかまでは決まっていなかった。