雨の降る世界で私が愛したのは

失踪



 一凛がいなくなったのはそれからすぐのことだった。

 皆に送られてきたメッセージは

 『どうか探さないでください』

 簡単な一文だった。

「なによこの安っぽいドラマのようなメールは」

 電話を握りしめほのかは動物園の事務所にいた。

 自分より依吹の方がショックを受けているはずだと思ってもどうしても責めるような口調になってしまう。

「だいたいあんたがしっかりしてないからこんなことに」

 依吹は冷静だった。

 一凛は絶対にハルに会いにくるはずだ。

 だから動物園を見張っていれば必ず一凛を見つけることができる。

 そう言う依吹はもう何日も家に帰っておらずこの事務所に泊まり込んでいるようだった。

「どうしてもハルを助けることはできないの?」

「それができるんだったらしてるよ」

 沈黙が流れる。

 一凛はまた前回と同じようにハルを助け出そうとしているのだろうか?

 ほのかは思った。

 今度はたった一人で?

 あんな身重なのに。

「今なんて言った?」

 依吹に訊ねられる。



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