雨の降る世界で私が愛したのは


 それ以来なんとなく鍵を渡しっぱなしになり、颯太がときどきクリニックを使うようになっているという。

 また颯太がいる時に限って急患がやって来たりするものだから、

「俺も助かっちゃてるんだよねぇ」

 と彰斗は舌をぺろりと出した。
 
「颯太のやついい加減離婚して一凛ちゃんとまたよりを戻せばいいのになぁ。

 やっぱ復縁、復縁こそ真実の愛だ。というより、もう戻ってんのかな。

 先月うちのクリニックで見かけたから。ちらっと一瞬だったけど、あれ一凛ちゃんだと思う」

 これからまた元カノの実家を訪ねるという彰斗を雨の中に残しほのかは車を走らせた。

 一凛が颯太と。

 灯台下暗しだった。

 お腹にハルの子を抱え追いつめられた一凛が医者の颯太を頼る可能性がゼロではないと思ったが、あの颯太だ。

 快くすべてを引き受けるとは思えない。

 病院の休憩所で怒りをあらわにしていた颯太。

 ほのかは嫌な予感がした。



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