雨の降る世界で私が愛したのは


 生贄の儀式には多くの人が集まった。

 四角い檻の中に入れられたハルは静かに横たわっていた。

 暴れると危険だということで今回は眠らせた状態で儀式が行われることになったのだ。

 黒い毛で覆われた巨体が水に沈められていく。

 やがて完全に檻は見えなくなった。

 誰も歓声などあげる者はいなかった。

 人々はただ静かにそれを見守った。

 しばらくしてどこかで鐘が鳴った。

 それは確実に生贄が差し出されたという合図と共に儀式の終わりを意味していた。

 川沿いに集まっていた群衆は氾濫した川のように町に溢れ帰って行った。

 それでもまだ残って様子を伺っている見物人もいて、その中にほのかと颯太がいた。

「沈められた檻はいつ引き上げられるの?」

 ほのかはオペラグラスをバックにしまった。

 儀式の様子をオペラグラスで見るなんて神経が知れないと呆れていた颯太は短く応える。




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