雨の降る世界で私が愛したのは


 あの日自分だけこっそりクリニックに戻ったほのかは、産まれた子がハルの子だったということを知った。

 ほのかは空を見上げる。

「雨、止むかな?」

 ほのかと同じように颯太も空を見上げる。

「さあ」

「一凛大丈夫かなあ」

 颯太はしばらく黙って言った。

「祈るしかないよ」

 二人が仰ぐ重くて暗い雨雲が少しだけ明るくなったように見えた。




< 351 / 361 >

この作品をシェア

pagetop