雨の降る世界で私が愛したのは
「い、いつから依吹はその」
男が好きなの?と聞こうとすると依吹は一凛の言葉を遮った。
「俺さ、親父が死んでなんかせいせいしてんだよな。この世界から罪がひとつ消えた感じ」
「罪?」
依吹はしばらく考え込むような素振りを見せたがやがて言った。
「人間って生きてるだけで罪だと思う。この世界で自分たちが中心であることが当たり前だと思っててさ。動物たちをこんな風に檻に閉じ込めて、自分たちこそが世界を支配する者だと信じて疑ってない」
それっきり依吹は口を噤んでしまったので、一凛も黙って歩いた。
こんな風に二人で歩くのは本当に久しぶりだった。
もっと依吹にいろいろ訊きたいことはあったが一凛は訊けなかった。
数年間の隔たりが、いま傘が触れ合う距離にいる二人に見えない壁を作っているようだった。
その夜一凛は夢を見た。
天に届きそうな高い岩山の先端であのゴリラが叫んでいる。
その声があまりにも哀しげで一凛は胸が苦しくなる。
夢から覚めても哀しみは続き増々大きくなって一凛を包んだ。