雨の降る世界で私が愛したのは
なぜ自分でもそんなことを聞くのか分からないが、中学時代依吹はけっこう女子にモテていた割には、彼女がいるという噂は聞いたことがなかった。
「いるよ」
意外な返事だった。
いや意外ではなく「いないよ」という言葉をどこかで期待していた。
自分のことは棚に上げてなんだか少し寂しい気がした。
一凛は一人っ子だが兄や弟など仲良く育った異性の兄弟にある日恋人ができるって、こういう感覚なのだろうかと思った。
「いるさ、彼氏がね。男子校だから」
一凛の頭が一瞬真っ白になる。
「ほ、ほんとに?」
そう言うのがやっとだった。
「ああ」
馬鹿嘘だよ、とか、冗談だよ、とか依吹が言ってくるのを待ったが依吹は何も言わなかった。
依吹に恋人ができたという事実よりも、自分が依吹のことを何も知らなかったということの方がショックだった。