雨の降る世界で私が愛したのは


 その日ゴリラは一凛に近づいてこようとはせず、じっと奥から一凛を見ているだけだった。

「また来るね」

 正面門からここまで辿りつくのに十分、戻るのに十分、檻の前には十分しかいられない。

 一凛はその場を急いで離れる。

 ピンクの傘が緑の向こうに消えるのをゴリラは見つめた。


 
 次の日も一凛は学校が終わるとすぐに動物園に向かった。

 そして次の日も、いつしかそれは一凛の日課のようになった。

 ゴリラの檻の前にはいつも誰もいなかった。

 いろんなことをゴリラに向かって話した。

 学校のこと、友だちのこと、そして自分の将来のこと。

 今まで誰にも言ったことのないようなことまで話した。

 なぜだかゴリラの前だと安心できた。

 なんでも全てを包み込んでくれるような気がした。

 初めての日以来ゴリラは一凛の目の前までくることはなかったが、いつも檻の奥で話に耳を傾けているかのようにじっと一凛を見つめていた。





 



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