雨の降る世界で私が愛したのは


 それでもやはり一言もしゃべらないところをみると、本当にこのゴリラはしゃべれないのかも知れないと一凛は思った。

 依吹の言うとおり少し頭が弱いのかも知れない。

 近くで見た時はそうは見えなかったけど、檻の奥は遠過ぎてゴリラの目の表情まで読み取れない。



 その日の一凛は少し落ち込んでいた。

 この前行われた進路相談が原因だった。

 担任の教師が太鼓判を押した大学の医学部に不満があるわけではない。

 でも希望しているわけでもなかった。

 担任の教師は行きたい大学と学部がまだ決まっていないなら、とりあえず狙えるところの一番高いところを、と強く薦めてきた。

 一凛の母親も満足していて、その日の夕食でその話を聞いた父親は「一凛の将来に乾杯だ、乾杯だ」とまだ確定したわけではないのに喜んだ。

 「俺と大学も一緒だね」と颯太も嬉しそうにした。



< 43 / 361 >

この作品をシェア

pagetop