雨の降る世界で私が愛したのは
珍しくはない、颯太が知らないだけだと思ったが一凛は「うん」とだけ返事をした。
「ちょうどいいや、これから少し勉強みてあげようか?この前化学式で分からないところがあるって言ってただろ」
土曜日は平日より動物園でゆっくりできる。
「あ、でもわたしこの後行くとこあるの」
「どこに行くんだい?」
「動物園」
颯太は一呼吸置いて言った。
「なにしに?」
一凛は動物園の隅にいるゴリラの話をした。
颯太は黙って一凛の話を聞いていたが、最後の方は顔を歪めた。
「気をつけた方がいいよ」
颯太は真剣だった。
「ゴリラとかオランウータンって人間に恋するって言うじゃないか、ときどき事件になってるよな。そのゴリラ一凛ちゃんにだけ威嚇しないなんて一凛ちゃんのことが好きなんじゃないのか?もともと野生の凶暴なゴリラなんだろ、もう行くの止めた方がいいよ、それに」