雨の降る世界で私が愛したのは
颯太は一凛から目を逸らすと言いにくそうに小さな声で言った。
「その動物園って依吹のところのだろ」
依吹とは葬儀の日に久しぶりに話しただけで、あれ以来また話してもいなければ、姿を見かけてもいない。
数年間の経たりがまた二人を遠ざけたように思えた。
もう小学生の一凛と依吹ではないのだ。
なんだか寂しいような気が今さらした。
「あんまり依吹には会ってほしくないな」
颯太の声で一凛ははっとして顔をあげる。
すぐ目の前に颯太の顔があった。
「わたしと依吹はほんとただの幼馴染みだから」
颯太の顔が少しづつ下りてくる。
「幼馴染みでも男と女だよ」
「でも男が必ずしも女が好きだとは限りませんよ」
颯太の動きが止まる。
「どういう意味?」
しまったと一凛は思った。
勝手に依吹のことをバラしてはいけない。
そんなことをしてしまったら自分は人としてどうかと思う。