雨の降る世界で私が愛したのは
みんな好きな男子の話をするときは一様に頬を赤く染めたり、早口になって声を潜めたりしてとにかく挙動が不審だ。
そして話している本人だけではなくそれを聞いている周りの女子たちもいきなり、キャーとかイヤーとか声をあげたりして、何をそんなに興奮しているのだろうかと一凛には不思議で仕方がない。
一凛は恋をまだ知らない。
ほのかのように一凛と依吹を引っつけたがる女子が他にもいるが、依吹はただの幼馴染だ。
彼女らのように依吹のことを考えてひとり興奮なんて絶対にない。
いつか自分も男子のことで挙動不審になるのだろうか?
そんな自分は想像できない。
バスが校門の前で止まると前方と後方の二つのドアから子ども達が外へ飛び出していく。
ポン、ポン、ポンと色とりどりの小さな傘が咲く。
一凛が傘を開いた時、大きな赤い傘はずっと先を移動していた。