雨の降る世界で私が愛したのは


「睦雄のやつ、まじで一凛に惚れてんな」

 依吹はりんごの欠片を拾い上げると生い茂る緑の方に放った。

「邪魔者は退散しますよ。まあ、いくら睦雄が一凛に惚れたところで脱走は絶対無理だからな。睦雄の檻は特別に頑丈なんだ」

 依吹はその場を去ろうとして思い出したように振り返った。

「一凛、ぜったいに睦雄の手が届く距離に近づくなよ。ゴリラの力は凄いからな、簡単に腕折られるぞ」

 一凛は神妙な顔でこくりとうなずいた。

 依吹はそれを見てわずかに笑みを浮かべると、じゃあな、と行ってしまった。

 依吹の傘が緑の向こうに見えなくなると一凛は檻の中を振り返った。

 ゴリラは澄ました顔でりんごを食べている。

「依吹にりんごぶつけてくれてありがとう。依吹って訳け分かんないんだから」

 それに依吹の顔が近づいてきた時もやっぱり頭がスパークしたり、音楽が鳴ったりしなかった。




< 54 / 361 >

この作品をシェア

pagetop