雨の降る世界で私が愛したのは
こういう時の上手い取り繕い方が未だに一凛は分からない。
いつも依吹が話題を変えてくれるのを待つことしかできない。
「やっぱ女だといけるのかな」
耳元で依吹の声が聞こえたと思ったらすぐ横に依吹が寄って来ていた。
さっきと同じシチュエーションだ。
依吹の顔がゆっくりと下りてくる。
でもさっきと違うのは一凛を見下ろす目の位置が少しだけ低いのとその色だ。
依吹の瞳は薄い茶色をしている。
その色はどんどん薄くなっているような気がする。
みんなより薄い色をしているから依吹の見る世界も薄いんだろうか。
近づいてくる瞳を見ながら一凛はそんなことを思った。
依吹が一凛の腕を取り自分の傘の下に引き込もうとした、その時だった。
「いてっ」
依吹は自分の頬に手をやった。
地面に転がったのはりんごの欠片だった。
欠片が飛んできた方向の檻の奥ではゴリラがりんごを齧っている。