雨の降る世界で私が愛したのは
「颯太さんは学校でも女子にすごい人気で、それに生徒会長なんだからね」
一凛はちょっとだけムキになった。
「ふーん。それが一凛の思ういい男なんだ。ぜんぜん自分の尺度じゃねーな」
またもや何も言い返せない一凛に、じゃあなと、依吹は勢いよく自転車をこいで行ってしまった。
気づくとちょうどバス停に着いていた。
傘を叩く雨音がそこだけに小さな世界を作る。
『睦雄が可哀想だろ』
一凛は昔ニュースで見たオランウータンのことを思い出していた。
麻酔銃で撃たれる直前の血走った目が、あの時はただ怖いとだけ思ったが、あの目が昨日の彼の目と重なる。
哀しい目だった。
あのオランウータンはただ恋する人に会いたかっただけなのだ。
ただそれだけなのに、武装した人間たちに追われ囲まれ銃で撃たれ、どんなに怖くて、そして哀しくやるせなかっただろう。
一凛は決心した。
今日を最後にしよう。
今日さよならを彼に伝えて終わりにしよう。