雨の降る世界で私が愛したのは

「もう園に来るのは止めとけ。睦雄が可哀想だろ。ゴリラと人間じゃ絶対に報われないんだ。睦雄はあの檻から出ることすらできないんだ。一凛は軽い気持ちかもしれないけど、睦雄にはそれが何倍もの重さになるんだ。分かるだろ、ずっと狭いあの世界に一人でいるんだ」

 返す言葉がなかった。

 依吹の言う通りだからだ。

 自分はもしかしたらとても罪なことをしているのかも知れない。

 勝手な同情心から良かれと思ってやっていることは実は大きなお世話で、時として相手をとても苦しめることになる。

 依吹はやっぱり自分なんかよりずっと動物に想いやりと持って接しているのだと思った。

「うん、そうだよね」

 一凛がうなだれると、依吹は慰めるように言った。

「まあ一凛をちゃんと捕まえていない彼氏が悪いんだけどな。もうちょっとましなのに代えたら?」

 最後の方はからかうような調子になる。


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