雨の降る世界で私が愛したのは
一凛の決意
小降りだった雨は学校が終わって外に出るとどしゃぶりになっていた。
激しい雨音は他の全ての音を吞み込む。
動物園は人気がなく静かで夜がすぐそこまで来ているかのように薄暗かった。
何度も歩いた道をわざとゆっくり歩く。
檻まであとちょっとのところで一凛は足を止めた。
檻の前で彼が降りしきる雨を見ていた。
四本の手足をすっくと伸ばした姿は最初に会ったときと同じだった。
雨音で一凛がやって来る気配が掻き消されたのか、彼は一凛に気づいていない。
背中の銀白色の毛と雨雫の銀色が混じり合い輝いている。
その下には人間では太刀打ちできない太く力強い筋肉が隠れている。
この躯がジャングルを自由に駆け巡るさまを想像した。
それはどんなに美しいだろう。
急に辺りが白く光った。
一凛は小さな声を上げ首をすくめた。
少しして遠くでごろごろと雷が鳴った。