雨の降る世界で私が愛したのは


「仕事はイギリスにいたほうがやりやすいのに、アレックと別れたのが理由じゃないよね」

「どちらかと言えばその逆」

 ほのかはぎりぎりで赤になる交差点に突っ込み他の車からクラクションを鳴らされる。

 一凛は体を固くした。

「え?今なんて言った?わたしてっきり一凛はアレックと結婚するんだと思ってた。だって長くつき合ってたじゃない、何年だっけ?」

「八年」

「高望みしすぎなんじゃない?一凛は今をときめくアニマルサイコロジストだけど、男の条件上げすぎると婚期逃しちゃうよ」

 数年前一凛が書いた論文が高く評価され、それから何冊かの本を出版した。

 その手の雑誌にコラムを連載したりテレビ番組にも出演したりと一凛は多忙な毎日を送っていた。

 一凛の知名度は日本にも伝わり、今回日本から仕事のオファーがきたのだ。



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