雨の降る世界で私が愛したのは
もともと大学を卒業したらすぐに帰国するつもりだった。
それが大学で学ぶうちにもっとアニマルサイコロジーの最先端のこの国で研究したいという気持ちが強まり、いつしか日本に帰るという意志が一凛の中からなくなってしまっていた。
アレックの差し出した指輪は輝いていた。
素直に嬉しかった。
アレックと結婚してこのままイギリスで研究が続けられたらどんなにいいだろうと思った。
でもそれに手を伸ばそうとした時、それは聞こえたのだ。
艶のある低くて哀しい音。
何かが一凛の中でくすぶった。
自分は大切なことを忘れている。
日本に帰らなければ。
直感的にそう思った。
それは逆らいがたい強い衝動となって一凛を突き動かした。
日本で暮らしたいと言うとアレックは瞳に影を落として首を横にふった。
君は僕を愛してくれていないんだねとアレックは言った。