トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
11 帰途
晴れていた空にはいつの間にか厚い雲がかかっていた。夕立が蒸し暑い夏の空気を一掃していく。


篤は瑞希を追い詰める犯人がわかった事に安心したが、思ったよりも心は晴れなかった。


「天気が崩れる前に、車に戻れて良かったですね。」


助手席の彼女が空を眺めてそう言う。


彼女を見る度に感じる、正体の分からない感傷。胸がつかえて気持ちが落ち着かない。


拓真への罪悪感?


俺はそんなものをいつまでも引きずるような、優しい人間ではない筈だけど。



「……さん、 篤さん?」


彼女に声をかけられて我に返る。


「え? あぁごめん、ぼんやりしてた。

瑞希ちゃんは疲れてない? 大丈夫?」


「私は……こんな状況で不謹慎ですけど、楽しかったですよ。


今日はありがとうございます。」


はにかむように笑う様子に癒される。


「それなら良かった。俺も楽しかったよ。拓真は一人でしんどかっただろうけど。

特にあの女性客ばっかりのカフェに男一人で入るとか、もはや拷問の域だよなぁ。想像するとウケる。」


そう言うと彼女は苦笑いだ。


拓真のことを話題にするとき、癖のように冗談半分にしてしまう。


それは、失恋をした彼女への気遣いなどではなく、俺は彼女と拓真について話すのが怖いのだ。


それに気が付くと、さっきから追いかけてくる感傷の正体が見えた気がした。
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