トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
女の言葉に、怒りで視界が赤く染まった。


お前が瑞希を語るな。批評家気取りで知ったような口をきくな。


手近なグラスを叩き割ると、手から血が流れて女に落ちる。


さっきまでとは濃度の違う恐怖を感じたのか、女は暴れ、それをかまわず押さえつけた。


思い出した。俺は本来こういう狂暴で酷薄な人間だった。


いつもは瑞希や篤のような優しい人と過ごしているから忘れていたが、俺は本当はこちら側の人間。


「俺はお前を忘れないと言ったろ。


これからの長い人生、お前にも結婚したり、親になったり、人並みの幸せががあるかもしれない。


その度に俺が現れて全てを壊すことだって出来ると覚えておけ。お前の悪事はいつまでも消えない」


その時、数人のスタッフと篤がこの部屋に駆け付け悲鳴が聞こえた。どうやら音が響いたようだ。


「拓真、拓真……やめろ!」


篤が俺を女から引き剥がそうと飛びかかる。その必死な様子をどこか他人事のように眺めた。


「篤さん、助けて!!」


女はこんな状況でもうっとりと歓喜の表情を浮かべている。


「篤、放せ。俺の用件は終わってない。」


「放せるか。このままじゃお前が犯罪者になりかねない。それで誰が一番悲しむかわかるだろ。」
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