トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
俺と同じことに思い至ったんだろう、篤が叫ぶ。


「瑞希ちゃんを急いで確認しないと」


篤は立ち上がろうとしたが、


「嫌だ、篤さん置いていかないでっ!」


女に阻まれたようた。その二人を置いて全力で瑞希の元へ走る。



どうか、無事でいてくれ。



「そんなに慌ててどうしたの?」とか、そんなことを言って笑ってくれるだけでいい。


瑞希のいるスタジオ戻るが、すぐには見当たらない。先程とは違って、いくつかのセットが組まれていて死角が多くなっている。


焦りを抑えながらそのひとつひとつを見回して、会場内を半周ほどしたところで瑞希を見つけた。



セットの片隅で女性のセキュリティスタッフと一緒にいる。



良かった…………



そう思ったのも束の間、スタッフの手に白く光るものが見えた。それが何かを確かめる前に、スタッフは瑞希の背後から近付いてそれを小さく振り上げる。



間に合え



必死で瑞希の前に体を滑り込ませると、体の側面に焼けつくような衝撃を受けた。


「お兄ちゃん!!」


驚いて叫ぶ瑞希を見て、そのどこにも血や怪我の跡がないことを確かめて、やっと深く安堵した。
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