トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
16 For you
時間は少し巻き戻り、黒須 拓真の失踪から数日経った頃のこと。


夜中に黒須家を訪れた奥村 篤は、その足で仕事場に向かった。仕事は連日のようにハードなスケジュールが続いている。



明らかに疲労の色が濃く顔色の悪かった篤は、当日の撮影を終えると過労で倒れてしまった。






……ふりをした。つまり、これは仮病だ。


「忙し過ぎて体がフラフラする。悪い病気かもしれないし、今すぐ診てもらわないと!

お願いだから休ませて、休みをくださーい!」


やたらと饒舌なのでマネージャーは薄々と仮病を察して白々しい顔をしていたが、

普段は仕事のスケジュールに文句を言わない俺が必死に訴えるのを哀れと思ったのか、休みを調整してくれた。


かくして俺は、拓真が姿を隠したこの病院にいる。健康体なのがバレるまでの短い間でも、何とかなるだろう。


「ちょうど私の友人が入院してると聞いて。

藤堂 拓真の病室を探しているのですが。」


名前を変えたと手紙に書いているのを見たときから、この名字しかないと思っていた。

簡単に改名なんてできるものじゃないし、名前を変える現実的な方法なんて、養子縁組の解除をして、旧姓、つまりあいつの元の母親の名字に戻るくらいしかない。

名実ともに、黒須家を抜けてしまう方法しか。
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