トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「藤堂 拓真様ですね、まずは先方に確認いたしますのでお名前を伺っても宜しいでしょうか。」


「そうですか。でしたら確認して頂かなくて結構ですよ。友人に気を使わせると悪いので。」


やはり、この情報管理の徹底した病院では簡単に見つかるわけもないか。俺の名前が拓真に伝わっては元も子もないので、さっさと撤退する。


それにしても、あいつは本当に“藤堂”の姓を名乗っていたんだ。予想してたとはいえ、実際に使われていることが分かると妙に落ち着かない。


そんなことをしたら、今よりもっと過去に縛られるに決まってるだろうに。拓真は馬鹿なのか、マゾなのか、その両方なのか。可能であれば本人に問い正したい。



昼の間に拓真の病室がありそうな外科の病棟を探っておき、夜を待って病室を抜け出す。


とは言っても病室にネームプレートがあるわけでもないので、当てもなくフラフラと歩いていた。


患者の足音が聞こえる度に物陰から覗いて拓真かどうかを確認してみたが、そんなに容易く見つかるものではないらしい。


患者の配置図でもないかと期待してナースステーションに立ち寄ったものの、それも完全に空振りした。その様子を見られていたのか、警備員に怪しまれてかえって俺の方が質問攻めにされてしまった。


いい加減、虚しくなってくる。俺はどうしてこんな馬鹿みたいなことをやってんだ?






大事な友達が突然姿を消してしまった。



その結果、好きな人が一人きりで泣いていた。




身も蓋もない言い方をすれば、恋敵が消えた分だけ彼女は落としやすくなった。



この状況につけ込むことを、卑怯だとは思わない。みっともなくても欲しいものに手を伸ばして何が悪い。仕事でもそうしてきたし、俺はそういうタイプの人間だ。





でも、彼女は逢いたいと言ったから。



ただ、それだけのこと。
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