トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
そう言ってゆっくりと唇を首筋に寄せると、触れるか触れないかの位置で止めて、顔を離す。


「この演出だと、こうやってキスしてるように見せてるんだよ。ちょっとは安心した?」



篤さんはそう言ってクスクスと笑うけれど、顔が近付くと少し癖のある柔かな髪が首筋をかすめ、吐息が微かな熱を残し、その感覚でいっぱいになる。



あのキレイな女優さんに、こんな感じで兄が触れているんだ。



自分の体に再現されると、いっそう生々しく想像してしまい、気が変になりそうになる。



『今だけは、他の男のことは考えないで』



セリフが耳元で聞こえて、思わず篤さんを振り返った。



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